就業規則

カスハラ対応を就業規則に書く方法と条文例|必要な7つの条項と改定手順

「カスハラ対策は就業規則に書かないといけないの?」「書くとしたら何をどう書けばいいの?」——この記事では、法律上の位置づけを整理したうえで、盛り込むべき7つの条項をそのまま使える条文例つきで紹介し、意見聴取から届出・周知までの手順を解説します。

公開日:2026年9月19日

就業規則への記載は義務なのか

結論から言うと、「就業規則に書くこと」そのものは、法律上の義務ではありません。2026年10月1日に施行される改正労働施策総合推進法と指針が求めているのは、カスハラに関する方針や対処の内容を定めて、労働者に周知することです。社内規程やマニュアルとして整備する形でも、義務を果たすことはできます。

ただし、指針は、相談したこと等を理由とする不利益な取扱いの禁止について、就業規則その他の職場における服務規律等を定めた文書に規定する方法を例として挙げています。また、厚生労働省の企業マニュアルでも、自社の従業員が他社の従業員に対してカスハラを行ったことが確認できた場合には、就業規則や服務規律を定めた文書に基づいて懲戒等の措置を講ずることが望ましいとされています。

この記事の立場

「義務ではないが、実務上は書いておくほうが安全」というのが結論です。理由は次の章で説明します。なお、常時10人以上の労働者を使用する事業場には、そもそも就業規則の作成・届出義務(労働基準法第89条)があります。

それでも就業規則に書いたほうがよい3つの理由

① 懲戒処分の根拠になる

カスハラの行為者は社外のお客様であることが多いのですが、自社の従業員が取引先の担当者に対して加害者になるケースもあります。この場合に懲戒処分を検討するには、就業規則に根拠となる規定が必要です。「取引先の従業員に対してもカスハラを行ってはならない」と明記しておくことが、抑止にもなります。

② 「相談したら不利益を受けるのでは」という不安をなくせる

相談したこと、事実確認に協力したことを理由に不利益な取扱いをしない——これを就業規則に書いておくと、会社としての約束が明確になります。相談をためらう空気が残ると、被害が深刻になるまで表に出てきません。

③ 現場の判断がそろう

「どこまで応じるか」を個々の従業員の感覚に任せると、担当者によって対応がばらつき、お客様にとっても不公平になります。定義と対応手順を規則に落とし込むことで、会社としての一貫した対応ができます。

どこに書くか:3つの選び方

方法向いている会社ポイント
A. 就業規則の本体に条文を追加 条文数が少ない中小企業 服務規律・安全衛生・懲戒の各章に分散させず、「カスタマーハラスメントへの対応」として1つの節にまとめると読みやすい
B. 就業規則から委任し、別規程を作る 手順や様式まで細かく定めたい会社 就業規則には基本の条文を置き、詳細は「カスタマーハラスメント対応規程」に。改定がしやすい
C. 既存のハラスメント防止規程に追加 パワハラ・セクハラの規程がすでにある会社 相談窓口を一本化できる。「顧客等からの行為」も対象に含めることを明記する

どの方法でも義務は果たせます。迷う場合は、まずAで最小限の条文を入れ、運用しながらBへ移行するのが現実的です。

盛り込む7つの条項と条文例

以下はそのまま使える形の条文例です。自社の実情に合わせて、業種特有の行為や窓口名を書き換えてご利用ください。

① 目的

第○条(目的)
本章は、顧客等からの著しい迷惑行為(以下「カスタマーハラスメント」という。)から従業員を保護し、従業員が安心して働くことができる就業環境を確保するために必要な事項を定める。

② 定義

第○条(定義)
1. 本章において「顧客等」とは、当社の顧客、取引の相手方、施設の利用者その他当社の事業に関係を有する者をいう。
2. 本章において「カスタマーハラスメント」とは、顧客等の言動であって、従業員が従事する業務の性質その他の事情に照らして社会通念上許容される範囲を超えたものにより、従業員の就業環境が害されるものをいう。
3. 前項の言動には、次の各号に掲げるものを含む。
(1)暴行、傷害その他の身体的な攻撃
(2)脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言、土下座の強要その他の精神的な攻撃
(3)威圧的な言動、継続的または執拗な言動
(4)不退去、居座りその他の拘束的な言動
(5)契約等により想定するサービスを著しく超える要求、対応が困難または不可能な要求、不当な損害賠償の要求
(6)電話、電子メール、SNSその他インターネット上で行われる前各号に準ずる言動

※正当な意見・要望はカスハラに当たらない旨を、次の条文であわせて示すと誤解が生じにくくなります。

③ 会社の方針

第○条(会社の方針)
1. 会社は、顧客等からの正当な意見および要望には誠実に対応し、商品およびサービスの改善に活かすものとする。
2. 会社は、カスタマーハラスメントに対しては毅然とした態度で対応し、組織として従業員を保護する。
3. 従業員は、カスタマーハラスメントを受けた場合、一人で対応を継続する必要はなく、本章に定める手順に従い会社に報告するものとする。

④ 報告と対応の手順

第○条(報告および対応)
1. 従業員は、カスタマーハラスメントを受け、またはそのおそれがあると判断した場合、速やかに上長または相談窓口に報告しなければならない。
2. 報告を受けた上長は、状況に応じて対応者の交代、複数名による対応、対応の打ち切り、退去の要請その他必要な措置を講ずる。
3. 会社は、事実関係を迅速かつ正確に確認し、必要に応じて関係部門および外部の専門家と連携して対応する。
4. 従業員は、対応の経過について、日時、場所、相手方の言動および対応内容を記録するものとする。

⑤ 特に悪質な行為への対処

第○条(悪質な行為への対処)
会社は、カスタマーハラスメントのうち特に悪質と認められるものについては、対応の中止、退去の要請、書面による警告、来店または訪問の謝絶、警察への通報、法的措置その他必要な対処を行うことができる。当該対処の要否は、担当役員または店舗責任者の判断により決定する。

⑥ 相談窓口・プライバシー・不利益取扱いの禁止

第○条(相談窓口)
1. 会社は、カスタマーハラスメントに関する相談窓口を○○部に置く。窓口の連絡先および受付方法は、別途社内に周知する。
2. 相談窓口は、カスタマーハラスメントに該当するか否かの判断に迷う事案についても、広く相談を受け付ける。
3. 会社は、相談者および事実関係の確認に協力した者のプライバシーを保護するために必要な措置を講ずる。
4. 会社は、従業員が相談を行ったこと、または事実関係の確認その他会社が講ずる措置に協力したことを理由として、解雇その他の不利益な取扱いを行わない。

⑦ 従業員の責務・記録の取扱い・懲戒

第○条(従業員の責務)
従業員は、取引先その他他社の従業員に対し、カスタマーハラスメントに該当する言動を行ってはならない。

第○条(記録の取扱い)
1. 会社は、従業員の保護および事実関係の確認のため、業務中の映像および音声を記録することがある。
2. 前項の記録は、カスタマーハラスメントへの対応、教育研修その他正当な業務目的の範囲で利用し、会社が定める期間保存した後に消去する。
3. 記録の閲覧は、あらかじめ定めた権限を有する者に限る。

第○条(懲戒)
従業員が前条までの規定に違反した場合、会社は就業規則第○条(懲戒)の定めにより処分することができる。

記録の条文を入れるときの注意

録音・録画は、従業員に対しても顧客等に対しても「何のために、どの範囲で記録し、どう管理するか」を示しておくことが大切です。個人情報の利用目的の特定・公表、保存期間、閲覧権限をあわせて定めてください。店頭掲示や名札表示で、記録していることを事前に知らせる運用もセットで検討しましょう。

この条文例をまとめた資料を差し上げます

本記事の条文例に加え、現場配布用マニュアルの目次ひな形をご用意しています。お問い合わせフォームの「資料請求」からお申し込みください。自社の規程づくりのたたき台としてご利用いただけます。

別規程にする場合の書き方

詳細な手順まで定める場合は、就業規則本体には委任の条文だけを置き、実務的な内容は別規程にまとめます。改定のたびに就業規則全体を触らずに済むため、運用しやすくなります。

第○条(カスタマーハラスメントへの対応)
顧客等からの著しい迷惑行為への対応に関し必要な事項は、別に定める「カスタマーハラスメント対応規程」による。

※別規程も就業規則の一部として扱われるため、作成・変更の際は就業規則と同じ手続き(意見聴取・届出・周知)が必要です。

改定の手順(意見聴取・届出・周知)

  1. 改定案を作る:上記の条文例をもとに、自社の窓口名・役職名・業種特有の行為を反映します。
  2. 過半数代表者の意見を聴く:労働者の過半数で組織する労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者から意見を聴き、意見書を作成します(労働基準法第90条)。
  3. 労働基準監督署へ届け出る:常時10人以上の労働者を使用する事業場では、変更届に意見書を添えて届け出ます(同法第89条・第90条)。
  4. 従業員に周知する:掲示・備付け・書面の交付・社内システムでの閲覧など、いつでも確認できる方法で周知します(同法第106条)。周知して初めて効力を持つと考えてください。
周知は「配って終わり」にしない

規程を配布しただけでは、現場は動けません。朝礼やミーティングで「カスハラだと思ったら、その場で上長を呼んでよい」と具体的に伝えることが、規程を生かす一番の近道です。

よくある失敗と注意点

  • 定義が抽象的すぎる:「著しい迷惑行為」とだけ書くと、現場は判断できません。行為の例を列挙してください。
  • 判断を現場任せにしている:誰の判断で対応を打ち切るのかを書いていないと、結局その場の担当者が抱え込みます。
  • 正当なクレームまで拒否する内容になっている:カスハラ対策は正当な声を遮断するものではありません。第1項で「正当な意見には誠実に対応する」と明示してください。
  • 障害のある方への合理的配慮と混同している:合理的配慮を求める意思表示はカスハラに当たりません。
  • 記録のルールがない:録音・録画の目的、保存期間、閲覧できる人を決めずに運用すると、別のトラブルを招きます。

規程を「機能させる」ために必要なこと

条文を整えても、実際に事案が起きたときに機能するかどうかは、事実を確認できるかどうかにかかっています。報告・対応・懲戒・警察への通報、いずれの判断も「何があったか」が分からなければ下せません。

規程に「記録するものとする」と書いても、対応に追われる現場で毎回メモを取るのは簡単ではありません。日常業務の中で自動的に記録が残る形にしておくと、規程が絵に描いた餅になりません。

記録と抑止を、名札ひとつで

ネームプレート型カメラ
CareMemory(ケアメモリ)

胸元に着ける名札型のウェアラブルカメラです。対面の状況を映像と音声で記録し、「録画中」の表示で行き過ぎた言動そのものを抑止します。

  • 映像に日時・端末番号・スタッフ番号を自動で記録
  • 4G回線で管理者がリアルタイムに状況を確認
  • SOSボタンでワンタッチ緊急通報
  • 権限を持つ人だけが記録を閲覧できる管理
CareMemoryを詳しく見る
ネームプレート型カメラ CareMemory本体と管理画面

よくある質問

従業員が10人未満の会社でも就業規則に書く必要がありますか?

常時10人未満の事業場には就業規則の作成義務がありません。この場合は、カスハラ対応のルールを社内規程や文書として定め、従業員に周知すれば義務を果たせます。ただし、懲戒の根拠が必要になる場面を考えると、簡潔な就業規則を整えておくことをおすすめします。

改定は従業員にとって不利益変更になりますか?

従業員を保護するための規定を追加する内容であれば、通常は不利益変更には当たりません。ただし、記録の取扱いなど従業員に義務を課す条文を入れる場合は、目的と運用方法を丁寧に説明し、理解を得たうえで進めてください。

条文例はそのまま使えますか?

たたき台としてご利用いただけますが、業種・体制によって適切な内容は変わります。届出の前に、社会保険労務士や弁護士などの専門家に確認することをおすすめします。

施行日の2026年10月1日までに間に合わない場合は?

まずは基本方針・相談窓口・対応手順を文書化して周知し、就業規則への反映は次の改定に合わせる進め方でも構いません。何も決まっていない状態を放置しないことが最も重要です。

出典・参考

※本記事は2026年9月時点の公表資料をもとに、一般的な情報として作成したものです。条文例は例示であり、その内容および使用による結果について当社は責任を負いかねます。実際の規程整備にあたっては、社会保険労務士・弁護士などの専門家にご相談ください。

従業員の安心・安全と、業務支援のサポートを。

導入台数や運用方法に合わせてご提案します。お気軽にご相談ください。